恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる
「ま、真城さん?」
「俺が怖い?」
「……いいえ」
彼の顔が見えていないせいだろうか。自分でも驚くくらい、素直に答えられた。
「じゃあもう少しだけ、このまま……」
背中に腕が回され、ギュッと抱きしめられる。
どうしてこんなことになっているのだろう。そして、私はどうしてこんなにドキドキしてしまっているんだろう。
真城さんとは、お隣さんや相棒以上の関係にならない方がいいと思ったばかりなのに……。彼の腕の中は温かくて、他のどこより居心地のいい場所に思える。
こんな風に誰かの温もりに身を委ねるなんて、何年ぶりだろう。
抱き合うことで心が安らぐ経験なんて、自分にはもう一生できないと思っていたのに、真城さんだけはなにかが違う。
……いや、なにか、だなんて白々しい。
ずっと知らんぷりしてきたこの甘く切ない感情の正体を、私はただ認めたくないだけだ――。
きゅ、と胸の奥が締めつけられる感覚を覚えた直後、唐突に部屋の明かりが点いた。
夢の中にいたかのようにふわふわしていた意識が弾け、現実が戻ってくる。
パッと体を離すと、前にも一度見たことがある、大人の男性の顔つきをした真城さんと視線が絡んだ。