恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる
『本気で好きな相手を手に入れるためなら、悪い男になることも辞さないよ』
飲み会でそう言っていた時と同じ。〝いい人〟を封印した彼の目――。
恥ずかしいのに目を逸らせなくて、高鳴る心臓の音だけに全身を支配される。
ゆっくり顔を近づけて来る彼がなにをするつもりかすぐに理解したけれど、逃げることも拒絶することもなく、私はそっと目を閉じた。
唇に、やわらかな温もりが触れる。優しいキスなのに、火傷したようにジンジンと胸が熱くなった。想いが溢れてしまいそうで、怖いくらい。
どれくらいキスをしていただろう。長いようで短い時間が過ぎたあと、彼の唇がふっと離れていく。
私は彼の気持ちを探ろうと必死で瞳を覗き込んだのだけれど、真城さんは私と目が合うと、気まずそうに瞳を揺らし、やがて逸らしてしまった。
その反応に違和感を覚え、高鳴っていたはずの胸がざわめく。
真城さん? どうして目を合わせてくれないの……?
「――ごめん」
たっぷり間を置いた後、ただひと言、彼はそう言った。
自分の口を手で覆い、後悔するように眉根を寄せて。
今のキスはなかったことにしてくださいと、そう言わんばかりに見えた。