恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる
「あの、真城さん……?」
「今のは、本当に……言い訳のしようもない。俺が馬鹿だった」
真城さんが私の声を遮るようにそう言って、深々と頭を下げる。
私にキスをしたのは〝馬鹿だった〟――と思うようなことなのだ。
つまり、本当はそんなことするつもりはなかったと言う意味だ。
停電という状況で、男女ふたりで抱き合っていたから魔が差したとか?
真城さんなら、優しさからくる庇護欲がちょっと暴走しすぎたとか、そういうパターンもありそうだ。どちらにしろ、正当な理由でキスしたわけじゃないことに変わりはないけれど――。
「気にしないでください。私なら大丈夫ですから」
なにが大丈夫なのか自分でもよくわからないけれど、強がることなら得意なので、微笑みを貼り付ける。
顔を上げた真城さんはバツが悪そうな顔をしていて、本当に悪いことをしたと思っているようだった。
そんなに後悔しているのだろうか。私は決して、嫌ではなかったのに。
「雷……落ち着いたみたいだな。俺、帰るよ」
重苦しい雰囲気から逃れるように、真城さんがスッとソファから下りる。
私は慌てて棚の引き出しから約束のゴミ袋を一枚取り出すと、玄関まで彼を追いかけていき、気まずさをごまかすように「どうぞ」と手渡した。
真城さんは一瞬迷ったのち、静かに受け取ってくれる。