恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる
「……って、後ろ向きすぎ」
エスカレートしていく思考をストップさせるため、あえて口に出して突っ込んだ。
気分転換に外の様子を見たくて、リビングの窓辺に移動する。雷と一緒に雨雲も去ったようで、すっかり空は明るくなっていた。
走ってこようかな……。
壁の時計を見ると、もうすぐ午後六時になろうと言うところ。日没が遅い季節になったので、真城さんに心配されるようなこともないだろう。
そもそも彼の言いつけを守らなきゃいけない理由なんて……どこにもないのだ。
久々にランニングウエアに着替え、下ろしていた髪をひとつにまとめる。
それだけでも少し憂鬱な気分がましになり、玄関で「よしっ」と声に出してからドアを開けた。
誰かの話し声が聞こえてくる。
「ねえ、いいじゃん昴矢! 部屋入れてよぉ」
「ダメだって。……あと、くっつくな」
女性の猫撫で声と、少し不機嫌そうな真城さんの声。思わず声のした方を見ると、真城さんの家の玄関の前で、ひとりの女性が彼の体に腕を絡め、抱きついていた。
真城さんが私の視線に気づき、目が合うと「あっ」という口の形になる。彼の反応を見て女性もこちらを振り向き、私の姿を認識する。
彼女のショートカットと愛らしい瞳に見覚えがあった私は、心の中でひとり納得ししていた。
彼の言った『ごめん』ってそういうことか……。