恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる

「それなら、これまでに取引のあった調理器具メーカーの一覧がある。これまでも、食材と道具をセットで求められることはよくあったんだ。海外だと、パルメザンチーズを削るチーズグレーターとか製菓用の道具にけっこうニーズがあってね。ワインオープナーを扱っているメーカーも少なくなかったはずだ」

 真城さんにも思うところはあるのだろうけれど、基本的に公私混同はしないタイプのよう。メーカーの一覧をすぐに検索し、見せてくれた。

 針ヶ谷さんのように突然横柄な態度を取ったり、くだらない嫌がらせをされないのはありがたい。もちろん、社会人としては真城さんの対応が普通だけれど。

「ありがとうございます。結構たくさんのメーカーにつてがあるんですね」
「ワインオープナーにも種類があるけど、向こうの要望は?」
「特に指定はなく、こちらが勧める商品をとりあえず見てみたいと。ただしメイドインジャパンらしい、高品質のものがいいみたいです。ですから、安価な便利グッズ的な商品よりは、伝統的な技法を駆使したものがいいんじゃないかと」
「なるほどね。それならちょうどいいステンレス製品の会社がある。すぐに聞いてみるからちょっと待って」
「お願いします」

 さっそく私の横で電話をし始める真城さんの横顔を見ていると、胸の奥に押し込めていた感情がふいに飛び出してきそうになり、慌てて目を逸らす。

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