恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる

 彼の狡いところは、無意識にそのスマートな仕事ぶりを見せつけてくるところだ。

 面と向かって口説かれたりしなくても、魅力が嫌というほど伝わってくる。

 このままいくらビジネスライクな関係を貫き続けたとしても、嫌いになることは一生できない……そんな気がする。

「神崎さん、明日の午後時間あったよね? さっそくサンプル見せてくれるって」

 自分の思考に浸っていた私は、ハッとして彼を見る。スマホの通話口を押さえた彼が、私の返答を待っていた。

「はっ、早いですね! スケジュール的には問題ないですが」
「さっきの俺と同じこと言ってる。じゃ、明日ふたりで行くって伝えておくよ」

 真城さんは軽く笑って言うと、また電話に戻る。

 明日出かけることになったということは、その間にやろうとしていたタスクを別の時間に移さなければ。

 頭の中でスケジュールを組み替え、パズルのようにはめ込んでいく。

 毎日こうして仕事が忙しいことが、今はありがたかった。

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