恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる
翌日、予定通り午後にアポイントを取っていたステンレス製品メーカー『鏑木(かぶらぎ)ステンレス』の本社へ真城さんと向かった。
駅から近かったので移動は電車。車でふたりきりになるよりはよかったけれど、どこかで部活動の大会でもあったのか、乗り込んだ車両には大きなリュックを持った学生の集団がおり、予想以上に混雑していた。
「神崎さん、潰れてない?」
「は、はい」
真城さんはドアを背にして立つ私を庇うように手をつく。不可抗力とはいえ、至近距離で彼と向かい合う体勢になり、心臓が過剰に騒ぐ。
「……あのさ」
電車が動き出してすぐ、真城さんが口を開く。
「デンマークのニルセンさんが、一度俺たちに自分のブドウ畑を見てほしいそうなんだ。今はちょうど剪定作業の真っ最中で、それを手伝ってほしいとも言ってる。たぶん、俺たちの会社を信用できるかどうかの、最終チェックみたいなものだと思う」
「それって……出張するってことですよね。デンマークに」
だとすると、私の初めての海外出張になる。真城さんとの仲が気まずいとか言っている場合じゃない。
そもそも、私は商品を通して世界中の人々と繋がれる喜びを感じたくてパンドラパントリーに入社したのだ。