恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる

「……大丈夫? 俺と一緒で」

 真城さんは『なにが』とは言わない。けれど、仕事とは関係のない私個人の気持ちを聞かれているのだと、すぐにわかった。

「大丈夫……です。お互い、いつも通りの〝相棒〟でいられれば」

 もちろん、私はその立場を貫くつもりだ。だから、彼もそうしてほしい。

「神崎さんは、できそう?」

 念を押すように尋ねられると、胸がじりじりと疼く。

 あえてそんなことを聞いてくるなんて、優しいのか意地悪なのかわからない。

「あ、当たり前じゃないですか。仕事をしに行くんですから、簡単です」
「……そう。じゃ、俺たちふたりの名前で出張の申請をしておく」
「よろしくお願いします」

 私たちの会話はそこで途切れ、目的の駅までの十分強、ただお互いの息遣いを感じる近さで、気まずい時間を過ごした。


「こちらはよく使われるT字型、そしてソムリエナイフ。そしてこちらが、ダブルアクションと呼ばれるタイプのオープナーです。初心者が使うならダブルアクションがおススメですね」

 訪問先のメーカーでは会議室に通され、男性担当者が数種類の商品を紹介してくれた。

 恥ずかしながらワインオープナーにそれほど種類があるとは知らず、自分が使ったことのあるオーソドックスなT字型以外はほとんど馴染みがなかった。

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