恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる
真城さんも同じことを考えているのか、『収穫ありだな』と言うように、私と目を合わせて深くうなずいた。一社目からいい商品に巡り合えて、なんとなく幸先がいい。
「それでは、一度社に戻って検討いたしますので、実際に発注させていただくかどうかは後日ご連絡します」
「承知しました。よろしくお願いいたします」
真城さんと会議室を出ると、どちらからともなく目を合わせ、微笑みを交わした。
「いい商品ばかりだったな。あれ、俺も個人的に欲しいよ」
「わかります。ソムリエナイフですか? それとも、簡単に開けられる方?」
「うーん、ソムリエナイフがうまく扱えたらカッコいいんだろうけど、すぐに飲める方がいいな」
「ふふっ。私も一緒です」
和やかな会話を続けていると、彼との関係がぎくしゃくする以前に戻ったかのよう。
やっぱり、真城さんとは深い関係にならない方が正解なのだ。だって、彼の隣はこんなにも居心地がいい。
「……電話。部長からだ」
訪問先の会社を出たところで、真城さんがスマホを耳に当てる。私はもらったパンフレットをパラパラと捲った。
「はい、お疲れ様です。……例の件? ちょっと待ってください」
真城さんはチラッと私を見ると、つかつかと離れた場所まで歩いて行ってしまう。