恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる

 たまたま帰るタイミングが同じになって、帰る場所も同じマンションだから仕方ない? 一緒に帰るくらいなら、ギリギリ同僚の域を出ない?

 すぐに断りの言葉が出てこず、どこまでが許されるグレーゾーンなのか考えている自分は、ずるい女だ。

 彼女がいるかもしれない真城さんと一緒にいることを、正当化しようとしている。

「神崎さん、早く」
「……はい」

 先に歩き出した彼にせかされ、慌てて隣に並ぶ

 一緒に帰るだけなら、咎められるようなことじゃない。心の中で誰にともなくそんな言い訳をして。

――だから、ばちが当たったんだと思う。

 会社を出てすぐの歩道で、見覚えのあるショートヘアの女性が立っているの見つけ、彼女が真城さんの姿に気づいてぱぁっと花のような笑顔になるのを、彼の一番近くでハッキリと見てしまった。

「昴矢~!」
「……那美(なみ)? なんでここに」

 真城さんはボソッと呟いた後、すぐにハッとして私を見下ろす。

「神崎さん、ずっと紹介しそびれていたけど、彼女は――」
「こんばんは! 昴矢の友人で彼女候補、武井(たけい)那美です!」

 那美さんはガバッと真城さんの腕に抱きつき、弾けるような笑顔を浮かべた。

 真城さんはすぐに「離れろ」と彼女を引きはがそうとするが、那美さんはめげずにくっついている。

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