恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる
それにしても、彼女……ではなく、彼女候補?
微妙な肩書きに困惑するが、下の名前で呼び合い、こうして気安くスキンシップをする仲であることに変わりはない。
完全に気後れしながら、まごまごと挨拶した。
「神崎です。真城さんとは海外営業部の同僚で……」
「彼女、すごく優秀なんだ。最近国内担当から海外担当に抜擢されたばかりで」
「なによ、昴矢の手柄みたいに。ねえ、それより今時間ある? また相談したいことがあるの」
「今日は無理だ。あと、こうして待ち伏せされるのも困る。帰ってくれ」
「ひどーい……私が思いつめて道路に飛び出してもいいんだ」
那美さんが私の目を見たのは最初の挨拶だけで、あとはずっとこちらを無視して真城さんとの話をするのに夢中。
フルネームでの自己紹介も私をけん制しているように感じたし、私を邪魔者扱いしているのは明らか。
少し自分勝手な印象を受けるが、男の人はこれくらいハッキリ好意を示してもらえる方がうれしいのかもしれない。
相手の都合なんて構わず、彼の心にまっすぐ飛び込もうとしている那美さんが羨ましくて眩しくて……本音を言えば、少し妬ましい。
真城さんと一緒に帰れると決まって、ほんの少しだけ浮かれていた心に重たいシャッターが下りていく。