恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる
「真城さん、私ならひとりで帰れますからお気になさらず」
「ほらー、神崎さんもこう言ってるしさ」
那美さんが子どものように、掴んだ真城さんの腕をぶんぶん揺らす。
彼は大きくため息をつくと、那美さんの手をそっとほどいた。
「だとしても、先に約束したのは神崎さんだ。それに、連絡もなしに訪ねてこられても困るって、那美には何度も伝えたからわかってるはずだろ? 今日のところは帰ってくれ」
真城さんがそこまで強く那美さんを拒絶するとは思わず、内心驚いた。
自分を優先してくれたようで、誰にも言えないけれどうれしくて……。
さっきまで那美さんのことが妬ましかったくせに、チョロい女だな、と思う。
「だって、連絡しても忙しいって言って会ってくれないし……」
「それは那美が当日になって連絡を寄こすからだ。もう少し早くに相談してくれれば時間を作る。ただし、家には上げない。会うなら外でだ」
「……わかったわよ」
拗ねたように頬を膨らませ、那美さんがくるりと私たちに背を向ける。
彼の友人にしては少々幼い印象を受けるが、そのぶん自分の気持ちに正直でかわいらしい人だと思う。本当に、彼女を放っておいていいのだろうか。