恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる
「よかったんですか? 帰らせてしまって」
「ああ。那美にも言っただろ。きみとの先約があるって」
「先約というほどのものでもないような……」
「神崎さんに誤解されたくなかったんだ。マンションでも何度か彼女を見かけただろうけど、ただの友人だって、ちゃんと説明しておきたかった」
……どうして、わざわざ?
私はまた聞きたい質問を口に出せなかった。彼の思わせぶりなセリフに心はぐらぐらと揺れているのに、相棒の顔を保つので精いっぱいで、核心に触れられない。
「私も、ただの同僚ですけどね」
おまけに、冗談めかしてそんなことまで口走ってしまった。気まずさをごまかすように笑顔を作るけれど、真城さんは笑ってくれない。
「……俺は」
どうしよう。余計なことを言ったかもしれない。
今までこういう話題を必死で避けてきたはずなのに、自分から藪をつつくような真似をするなんて、本当に馬鹿。
「ただの同僚に、あんなことはしない」
あんなこと――そう言われた途端に、唇がキスの感触を思い出した。
真城さんの瞳はどこまでもまっすぐで、嘘を言っている様子はない。
でも、彼はあの時のキスを後悔していた。『俺が馬鹿だった』って。
なのに、今さらそんなことを言う理由は……?
動揺を隠しきれず、目をしばたたく。