恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる

「じゃあ、どうして謝ったりしたんですか?」
「それは――」
「や、やっぱり言わなくていいです! 今は受け止める余裕がありません」

 真城さんが口を開いた直後、急に怖くなって言葉を遮った。

 彼とどうにかなる覚悟も、決定的に嫌われる勇気もないのに、結論だけ急いだって、なんにもならない。私と真城さんは、毎日顔を合わせて仕事をする仲なのだ。

 曖昧にしておいた方がいいことだって、絶対にある。

「神崎さん……」
「海外出張も控えてますし、今は真城さんとこのままの距離でいたいんです。お願いします」
「……そうだな。いつも俺ばかり焦っていてごめん。そろそろ帰ろうか」

 シリアスなムードを断ち切るように、真城さんが明るく言って歩き出す。

 彼は何も悪くないのに、いつも謝らせてばかりだ。

 黙って彼の後をついていくと、速度を緩めた彼が横に並んだ。

「相棒なら、いつもちゃんと隣にいて」

 言い聞かせるような口調でそう言われ、胸が詰まった。

 こうして優しい彼の隣にいられることがうれしい。けれど、相棒は手も握ってもらえないと気づいて、泣きたいような気持ちになってしまう。

 壁を作ったのは自分なのに、その向こう側にいる彼がどんどん大きな存在になって、私の心を占領していく。

「……はい」

 そっけなく聞こえてしまうくらいの短い返事しかできない私に、真城さんはそれでも、優しい頷きを返してくれた。

< 125 / 199 >

この作品をシェア

pagetop