恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる
「じゃあ、どうして謝ったりしたんですか?」
「それは――」
「や、やっぱり言わなくていいです! 今は受け止める余裕がありません」
真城さんが口を開いた直後、急に怖くなって言葉を遮った。
彼とどうにかなる覚悟も、決定的に嫌われる勇気もないのに、結論だけ急いだって、なんにもならない。私と真城さんは、毎日顔を合わせて仕事をする仲なのだ。
曖昧にしておいた方がいいことだって、絶対にある。
「神崎さん……」
「海外出張も控えてますし、今は真城さんとこのままの距離でいたいんです。お願いします」
「……そうだな。いつも俺ばかり焦っていてごめん。そろそろ帰ろうか」
シリアスなムードを断ち切るように、真城さんが明るく言って歩き出す。
彼は何も悪くないのに、いつも謝らせてばかりだ。
黙って彼の後をついていくと、速度を緩めた彼が横に並んだ。
「相棒なら、いつもちゃんと隣にいて」
言い聞かせるような口調でそう言われ、胸が詰まった。
こうして優しい彼の隣にいられることがうれしい。けれど、相棒は手も握ってもらえないと気づいて、泣きたいような気持ちになってしまう。
壁を作ったのは自分なのに、その向こう側にいる彼がどんどん大きな存在になって、私の心を占領していく。
「……はい」
そっけなく聞こえてしまうくらいの短い返事しかできない私に、真城さんはそれでも、優しい頷きを返してくれた。