恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる
真城さんとのデンマーク出張は、六月の一週目に決まった。
移動に時間がかかるため、二泊四日の旅。郊外にあるニルセンさんのブドウ畑とワイナリーを見せてもらうのがメインだが、市街地ではいつもオンラインでやり取りしている得意先の酒販店やレストランを回り、売上や消費者の動向について直接話をする。
また、新たに提案したいワインを紹介するほか、他の国でさっそく大好評となっている日本製ワインオープナーについてもおススメする予定だ。
通常業務に加えてそのプロモーションを行うための資料作りもあったため、当日までは準備でかなりバタバタしていた。
「神崎さん、ちょっといいですか?」
多忙な日々を過ごしていたので、ちょっとカリカリしていたのだと思う。
デスクで事務作業に没頭していた時に浅井部長から呼ばれた時は、「なんですか!」と殺気立って振り向いてしまった。
部長が怯えたように眼鏡の奥の瞳をしょぼしょぼさせているのを見て、ようやく我に返る。
「す、すみません。あのご用件は……?」
「いえ、こちらこそ忙しいところすみません。こちらではアレなのでミーティングスペースの方へ」
「……はい」
アレの意味がよくわからないけれど、部長に従って席を立つ。