恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる
まさかとは思うけど、またどこかの整理とかそういう雑用を押しつけてくるわけじゃないよね……?
今はさすがにそんな余裕はないし、初めての海外出張に注力したいから、もしそうならきっぱり断ろう。
「針ヶ谷くんが、今月いっぱいで退職することになりました」
「えっ……?」
思わず、オフィスとの空間を隔てているパーテーションの方を振り向く。
言われてみれば、最近彼の顔を見ていない。
「すでに有休消化中なので、もう神崎さんに嫌がらせをするようなこともないでしょう。ですから安心してくださいと、それだけお伝えしたくて」
「えっ? 部長、どうしてそのこと……」
私から部長に相談したことはないし、私の前では派手に嫌味を言う針ヶ谷さんも、さすがに上司の前では控えていたはずだ。
「以前から薄っすら、彼があなたに対して当たりが強いことを感じていたのですが、決定的な暴力やセクハラの現場を見たわけではないし、神崎さんも上手くあしらっているように見えたので、大事にする必要はないと思っていたんです。……しかし、そのことで真城くんにかなり叱られまして」
部長が頼りない苦笑を浮かべ、そう言った。ここで真城さんの名前が出てきたのが意外すぎて、思わず聞き返してしまう。
「……真城さんが?」