恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる
「はい。針ヶ谷くんの言動はもう見過ごしていられないと。彼は僕を納得させるため、直接針ヶ谷くんを問い詰めた音声データまで用意していました。その行動の是非はおいておくとして、僕も驚きましたよ。神崎さんに仕事を押しつけるために仮病を使って会社を休んだこと。それに資料のデータを消し、資料室を荒らしたことについても認める会話が録音されていたんですから。一連のことにまったく気づかず、申し訳ありませんでした」
嘘……。真城さんが、針ヶ谷さんを問い詰めた?
針ヶ谷さんに絡まれたのを何度か助けてもらったことはあったけれど、彼自身がそこまでの行動に出るなんて、思いもよらなかった。
「正直なところ、殴り合いになるんじゃないかと心配になるくらいの激しいやり取りでした。それで針ヶ谷くんも最終的には折れたというか、認めざるを得なかったのでしょう。退職願は、彼本人から受け取りました」
「そう、だったんですか……」
真城さんからはなんの報告も受けていなかったので、理解が追い付かない。
でも、そういえば前に、部長から受けた電話の内容を『まだ内緒』と濁されたことがあった。彼はこうも言っていた。
『まだハッキリしたわけじゃないんだ。でも、いい方向にはいくと思う』
『神崎さんもホッとしてくれるといいんだけど』