恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる

『どうして俺が謝んなきゃいけないんだよ。仮病も資料室の件も、証拠はないだろ』

 ヤツを問い詰める場所に選んだのは、神崎さんが倒れていた資料室だ。

 俺はあの日の憤りを忘れない。彼女がここで毎日理不尽な仕事をさせられていたのが針ヶ谷のせいなら、許すつもりはなかった。

『確かに証拠はないが、お前が神崎さんを目の敵にしているのは誰が見たって明らかだ。どうにか彼女より優位に立ちたいのに、お前の実力じゃ逆立ちしても仕事で彼女の鼻をあかすことはできない。だから、嫌がらせで鬱憤を晴らすしかなかったんじゃないのか?』

 少々強引な誘導尋問ではあったが、針ヶ谷には効果があったらしい。奴は真っ赤になって目を吊り上げた。

『だってムカつくだろう! あの女。部長に気に入られてプロジェクトリーダーになったかと思えば、今度は海外営業部にまで抜擢されて。俺と付き合ってる時は全然かわいくない女だったのに、お前みたいなエリートの前では妙に艶っぽい顔しやがる。ずる賢くてしたたかな女なんだよアイツは。完全に男を見下してる』

 ……被害妄想も甚だしい。神崎さんが自分の思い通りにならないからといって、どうしてそれが男を見下してることになるんだ?

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