恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる
『お前の言うように、俺は彼女に心底惚れている。だからこうしてお前を人目につかない場所に呼び出したんだ。これまでの嫌がらせの件を認めて、彼女の前から消えると言うなら無傷で逃がしてやる。でも、いつまでもごまかし続けるつもりなら――』
『そんなことしたら真城、お前のせっかくの輝かしい経歴にも傷が……』
『経歴なんてどうでもいい。一番大切なのは、神崎さんの笑顔を守ることだ。だから彼女を傷つけるものは排除する。逃げるか殴られるか、さっさと好きな方を選べ』
『……わ、わかった。全部認めてお前たちの前から消える。それでいいだろ? 俺って営業職には合ってないかもなーなんて思ってたところだったんだ、ちょうどよかったぜ』
俺に殴られるのが怖くて逃げる、という事実を捻じ曲げたいのだろう。
ただ単に罪を認めればいいだけなのに、余計な言い訳まで付け足す針ヶ谷に呆れる。
『就業時間中にゲームをする、自分より優れた社員に嫌がらせをする、都合が悪い時は仮病を使って休む。営業職どころか社会人全般に向いていないと思うがな』
『な、なんとでも言えよもう……。俺は帰る』
去り際、針ヶ谷は相当怯えていたのか、内側に開くドアを勢い良く押して、顔からぶつかっていた。
直接殴ることは叶わなかったが、『痛ってぇ……』と小声で呟きドアを睨みつける針ヶ谷の姿を見て、少しは溜飲が下がった気がする。