恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる
「しかし、実のところきみたちがまだ恋人同士ではないと言うのはすこし意外でした。上司の僕から見ても、真城くんと神崎さんはなかなか相性がいいと思うのですが」
部長のそんな言葉で思考が現実に戻ってくる。俺は苦笑して肩を竦めた。
「……部長、痛いところ突かないでください」
俺だって、彼女のそばにいてその仕草や反応を見ていれば、この恋がまるっきり片想いというわけではないというのはわかっている。
しかし、神崎さんは固く閉じた心に本音を隠してしまっていて、無理にこじ開けようとすると苦しそうな顔をする。
そして、言い聞かせるように〝相棒〟という言葉を多用する。俺の気持ちはとっくに、そんな関係を飛び越えていると言うのに。
「それは失礼。でも、それじゃ真城くんにとって今度の出張はつらいものがありますね」
「まぁ、そこは仕事ですから」
口ではそう言いつつも、実際かなり苦しいと思う。異国の地で、片想いしている相手とふたりきり。宿泊する部屋は別だが、ホテル自体は同じだ。
「ちなみに僕は、仕事さえちゃんとやってくれれば、その後でふたりが食事をしようがお酒を飲もうが、ホテルの同じ部屋に帰ろうが咎めるつもりはありませんから。健闘を祈ってますよ」