恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる
それにしても、その女性担当者はどうしてワインに無知だったのだろう。
自然と俺が抱いた疑問に答えるように、ニルセンさんが言葉を継いだ。
「すると、男性の担当者は愚かにもこう答えたのです。『若い女性がいた方が、商談が和やかに進むかと思いまして』と。つまり、彼女はテーブルを飾る花のような役目を演じるためだけに連れてこられたらしいのです。私たちは開いた口がふさがりませんでした」
「それは……なんともひどい体験をされましたね」
話を聞いただけで、俺にもニルセンさんたちの落胆が伝わってくる。日本人全体にネガティブなイメージを抱いても仕方がないような出来事だ。
そうか、だから彼らは神崎さんに試験を――。
「ですから、その会社との取引はお断りしました。当時のことは特殊なケースだと思いたいですが、妻と相談して、念のため今回は試験をすることにしたんです。神崎さんとはオンラインでお話したことはありますが、やはり直接会って確かめたいと。試験といっても難しいものではなく、基本的なワインの知識を問うだけですが」
「なるほど。よくわかりました」
前もって告知しなかったのは、慌てて勉強されても困るからだろう。
普段から真面目に仕事をしている人間ならクリアできるというわけだ。
「神崎なら絶対に大丈夫です」
ニルセンさんの目を見て、自信たっぷりに断言する。
彼女は国内営業にいた頃から、ワインプロジェクトのリーダーだった。基本的な知識ならとっくに身についている。そしてそれ以上に、取引先への誠意ある対応は彼女の武器だ。