恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる
先日部長とワインバーを訪れた時も、神崎さんがいかに優れた営業かという話になった。営業というと数字で結果を求められる仕事ではあるが、彼女はその数字に表れない部分にも手を抜かないため、取引先からの評判が抜群だそう。
あのワインバーがいい例で、神崎さんは新入社員の時に初めてあの店で契約を取ってから、最近まで欠かさずに訪れては店主との信頼関係を築き、微々たる変化ではあるものの着実にワインの売り上げを伸ばしていたらしい。
海外営業に異動してからも、取引の大小にかかわらず愚直に仕事に取り組む彼女を俺は一番そばで見てきた。
彼女には〝営業トーク〟と言われてしまうだろうが、その仕事への取り組み方には一目置いているし、尊敬もしている。
だから、今日のように突然試験を課されたとしても、彼女なら絶対に乗り越えられると確信しているのだ。
「神崎さんを信頼しているのですね」
俺の心の内を読んだかのように、ニルセンさんが言った。
「はい。かけがえのない相棒です」
あわよくば彼女もそう思ってくれていたらいいと思う。もっとも、私生活ではそれ以上の関係を目指しているし、必ずそうなってみせる。
「頼もしい言葉が聞けてよかった。それでは私たちは、作業の方に移りましょうか」
ニルセンさんは優しく微笑み、手にしていた剪定ばさみをひとつ、俺の手に渡してくれた。
神崎さんはきっとニルセンさん夫妻の期待に応えるだろう。
だったら俺も、今自分にできることを精いっぱい努めようと、上着を脱いでワイシャツの袖を捲った。