恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる
抱きしめられるのが苦手じゃなくなった日

 畑に出て行くニルセンさんと真城さんを見送った後、私がアンナさんに連れてこられたのはワインのテイスティングができるスペースだった。

 壁一面のワインセラーにはここで作られているワインがきちんと温度管理された状態で種類ごとに並び、フロアの中央には縦にした樽の上に丸い天板がのったテーブルいくつかと、それを囲むようにしてスツールが置かれている。

 そのうちのひとつに座るよう勧められ、私は恐縮しながら腰を下ろした。

「それじゃ、まずはとりあえず、私たち自慢の白ワインを飲んでいただこうかしら」

 アンナさんがそう言って、ワインセラーからボトルを一本取り出す。コルク栓を抜くのには古典的なT字型のオープナーを使っていた。

「さぁ、どうぞ。率直に感想を聞かせてちょうだい」
「ありがとうございます。いただきます」

 私たちが普段口にしている〝いただきます〟の意味をぴったり訳せる英語がないので、そのまま日本語で口にした。

 グラスに注がれた白ワインをまずは外観からたしかめ、香りを嗅ぐ。それから口に含んで、空気を混ぜ合わせながらじっくり味わう。

< 147 / 199 >

この作品をシェア

pagetop