恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる
「レモンの皮に似た爽やかな香り、それとカモミールが合わさったような感じがします。甘味はほとんどなくて、フレッシュな酸味が心地よくて。それほど余韻は残らないすっきりとした味わいだと思いました」
長い間ワインに触れる仕事をしているため、テイスティングについても最低限の知識はある。
とはいえソムリエのように専門的なことまではわからないので、できるだけ簡潔な言葉で、自分なりの感想を伝える。
アンナさんはにっこり微笑んで頷いた。
「よかった。今言ってくださったことは、このワインで私たちが伝えたい美味しさそのままよ。自慢のすっきりした酸味は、このあたりの涼しい気候で育ったシャルドネならではの特徴なの。それじゃ、今飲んだワインはどれくらいの熟成期間だったかわかるかしら?」
どうやら感想については合格だったらしい。ホッと胸をなでおろしたのも束の間、すぐに次の問題が出されてどきりとする。
一部のヴィンテージワインや甘口の貴腐ワインを除けば、一般的な白ワインは三年以内に飲むのがよいとされている。長くても熟成は五年程度だろう。
今飲んだワインは透明感の強い色をしていたし、味わいも爽やか。だからといって出来立てではあの飲みやすさは生まれないだろうし……。