恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる
「試験だなんて意地悪なことをして悪かったわ。あなたが飾り物の女性社員じゃないってことはよくわかりました。いつもオンラインであなた方と交流していた夫の言っていた通り、とっても有能な方だわ」
アンナさんが、すっかり壁を取り払った様子で私のグラスにボトルを傾ける。慌ててグラスの脚を持ちワインを注いでもらうけれど、なにが起きているのか正直飲み込めていない。
「じゃあ、真城さんとニルセンさんは今頃なにを……?」
「もちろん、予定通りブドウの葉の剪定よ。彼らが外で働いているのに私たちは先に一杯やっているなんて、戻ってきたら怒られちゃうかもね」
アンナさんがお茶目に舌を出して笑った。
予告もなしに試験をすると言い出された時はご夫妻ともに気難しい方たちなのかと想像していたが、どうやらこちらが本来の姿のようだ。
緊張のせいでずっと力が入っていた肩から、ふっと力が抜ける。
「安心しました……。試験に不合格だったら、どんな顔をして日本の会社に戻ればいいのかと」
「そうよね。余計な精神的負担を与えてしまってごめんなさい。でも、数年前に私と夫はとっても残念な営業担当者に当たってしまったことがあって……あ、先に乾杯しましょうか」
グラスを合わせ、アンナさんと乾杯する。リラックスした気持ちで味わう白ワインは試験の時より不思議と美味しく感じられ、アンナさんが語りだした過去の体験談に興味深く聞き入った。