恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる
いくら酔っているとはいえ、さすがに理性はちゃんと残っていた。
どう答えようか考えあぐねていると、出入り口のドアがガチャっと開く音がする。
「おいおい、楽しそうだな。ずいぶん仲良くなったようじゃないか」
呆れたように言って入ってきたのはニルセンさんだ。彼の背後に立つ真城さんは、ジャケットを手に持って軽くネクタイを緩めている。
屋外での作業で汗をかいたのか、前髪をかき上げた瞬間額が光っているのが見えた。
普段あまり見ることのない武骨な姿に色気があり、さっきまで彼の話をしていたことも相まって、鼓動がやけに乱れる。
私は真城さんの内面に惹かれた部分が大きいから意識していなかったけれど、そういえば彼は容姿も俳優顔負けに整っているんだった。
気づいてしまったが最後。その美しい顔立ちを直視することができない。
「ふたりともお帰りなさい。シノはとても優秀だったわ。私たちのワインのこと、完璧に理解してくれて」
「それならよかった。私たちも仲間に入って盛り上がりたいところだが、その前に仕事の話を済ませてしまおう」
「そうね、私ったらすっかり忘れていたわ」
アンナさんはクスクス笑って、夫のもとへ歩み寄る。
仕事の話……。そうだ、彼らときちんと本契約を交わすことが今回の出張のメインイベントなのに、私はなにを酔っぱらっているんだろう。祝杯を上げるには早すぎる。