恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる

 慌てて椅子から下りると、思いのほか膝に力が入らなくて体のバランスを崩す。

 思わずテーブルに掴まると、真城さんがすぐに気づいてこちらへ駆け寄ってきてくれた。

「神崎さん、大丈夫? ……もしかして酔ってる?」

 おそらくアルコールのせいで頬が紅いのだろう。自分でもそんな気がしたため、慌てて手のひらで火照りを冷ましつつ答える。

「す、すみません。アンナさんがとても楽しい方なので、つい乗せられてしまって」
「驚いたな。きみなら試験にパスするだろうとは思っていたけど、そこまで取引相手の懐に入ってしまうなんて」

 アンナさんと一緒に楽しくお酒を飲んでいただけなのに、妙に感心されて恥ずかしくなる。

「そ、そんな大層なことでは……。きっと真城さんが私の立場だったとしても、結果は同じだったはずです」
「いや、きみのお手柄だよ。俺も負けていられないな。預けてた俺のバッグある?」
「はい、ここに」

 スツールのひとつに置いていた彼のバッグを取って渡す。真城さんは「ありがとう」と微笑むと、まっすぐニルセンさんたちの方へ歩みを進めた。

「今日はおふたりにプレゼントがあって」
「プレゼント?」
「あら、なにかしら」

 プレゼントがあるなんて私も聞かされていなかったので、ニルセンさん夫妻と一緒になって(なんだろう?)と思いつつ、彼の隣に並ぶ。

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