恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる
バッグから彼が取り出したのは大きさがちょうど単行本くらいのリボンがかかった箱。側面に印字されたアルファベットの社名『Kaburagi Stainless』には見覚えがあり、声に出さずにあっと思った。
アンナさんがリボンをほどき、箱のふたを開ける。
「まぁ! これは……ワインオープナー?」
「すごいな、五種類もセットになっているのか。しかも全部上質なステンレス製のようだ。こんにいいものをもらってしまっていいんですか?」
箱の中には高級感のある赤い布が敷かれていて、それぞれのオープナーの形にくぼんでいる。真城さんが特別な贈答用として手配してくれたのだろう。
「もちろんです。とても質のいいステンレスを使った日本製で、たとえば腕力のない女性なんかは、テコの原理を利用したこちらのダブルアクションがお勧めです」
「早く使ってみたいわ。そのためにはもう一本ワインを開けないと」
「わかったわかった。契約書にサインをしてからゆっくりとな」
「もしも使い勝手がよかったら、このワイナリーで販売してもいいかもしれないわ。道具にこだわる日本人が作ったものだもの。きっと人気が出るわ」
ワインオープナーに感激して、そんなことまで口走るアンナさん。たぶん、私と同じく少々酔っているせいもあるのだろう。
しかし、真城さんはこんなちょっとした隙をも見逃さない。