恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる
「いや、ご夫妻がふたりとも酒豪だったから俺でも付き合うのは大変だった。朝、起きられる? モーニングコールをしようか?」
「いえ、そんな! スマホでしつこくスヌーズしますから大丈夫です!」
「そう。……寝起きにきみの声が聞きたかったんだけどな」
「えっ?」
静かな口調ながら、艶を含んだ低い声にどきりとする。おずおず視線を上げて彼を見ると、蠱惑的に細められた目が私をとらえた。
ホテルの部屋にふたりきりでいるという事実を今さらのように認識し、どぎまぎする。
「も、もしかして真城さんも酔ってます?」
「だと思う。だから絶対これ以上きみに近づかない。自分を信用できないから」
それは、これ以上接近したら手を出すと宣言しているのと同じだった。
今でも手を伸ばせば届く距離にいるけれど、彼は自分にそれを禁じるかのように、固く腕を組んでいる。
「あの、雷の夜みたいにならないように……ですか?」
私は気づいたらそう口にしていた。ふたりきりで密室にいる状況が、あの夜ととても似ていると思ったのだ。
脳裏に焼き付いて離れない、甘い口づけの記憶。そして彼の放った『ごめん』の言葉は、今でも胸に刺さったままだ。
真城さんが苦しげに目を伏せる。