恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる

「えっ?」
「あの時、私は真城さんと同じ気持ちでした。だから謝る必要はなかったんです」
「神崎さん……」
「それと、やっぱり明日のモーニングコールお願いしていいですか? 私も、あなたの声が聞きたいです」

 これが、今できる最大限の意思表示。そして、私なりの精いっぱいの甘えだ。

 心臓が口から飛び出しそうなほど緊張したし、声は震えていた。カッコ悪いことこの上ないけれど、相手が真城さんだから、そんな自分でも堂々としていようと思える。

「……そんなの」

 真城さんがボソッと呟く。

 よく聞こえなかったので軽く首を傾げると、ガバッと両手を広げた彼に強く抱きすくめられた。

「ま、真城さん……!?」
「そんなの、いいに決まってる。……ありがとう、志乃」

 私の髪に顔を埋めた彼が、感極まったようにかすれた声で囁く。

 突然の名前呼びに心臓が大きくジャンプして、顔が沸騰しそうなくらい熱い。

 それでも、パニックになってフリーズしたり、逃げたくなったりはしない。

 ゆっくり手を伸ばし、広い彼の背中にキュッと掴まる。

 抱き合うのをこんなに心地いいと思うのは初めてだ。それに、こんなに優しい気持ちで胸がいっぱいになるのも。

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