恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる
「忘れるなんてもったいない。何度も思い出して、そのたびにかわいいなって思うよ」
シートに深く身を預け、ちらりと流し目を送ってくる昴矢さん。
私の気持ちをほとんど確信しているからか、言葉でも行動でも一気に攻め込んで来ようとしているのを感じる。
決して嫌ではないけれど、相変わらず男性への耐性が弱い私はただただ困ってしまう。
「あの、こういう話はもうやめましょう……! 羽田に帰るまでが出張ですので、飛行機に乗っている間は相棒の立場を逸脱しないでください!」
「じゃ、降りた瞬間からはいいの?」
「現在出張中です。お答えできかねます!」
通路側にいる彼の方からぷいっと窓の方へ顔を逸らす。子どもっぽい意地を張っているのは重々承知だが、このままじゃ私の心臓が持たない。
「からかいすぎたな、ごめん。羽田につくまでは大人しくしてるよ」
「くれぐれも、よろしくお願いします……」
「了解」
ようやく平常心が戻ってきた頃、飛行機が離陸する。
日本に帰れる安心感もあるけれど、初めての海外出張が終わってしまう名残惜しさもあり、段々と小さく、見えなくなっていくデンマークの土地を、私はしっかりと自分の目に焼き付けた。