恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる
優しい愛に包まれて
帰りは一度ロンドンでの乗り継ぎを挟んだため、移動だけで二十時間あまりかかる長旅となった。
日本時間の午後六時ごろ、羽田空港の第三ターミナルに到着し、無事に荷物を受け取った。
昴矢さんと並んでターミナル内を歩きつつ、凝り固まった首や肩を軽く回す。
「海外営業って、こういう長距離移動にも慣れなきゃいけないんですよね……大変」
「とくに今は俺たち北欧担当だしな。疲れてるなら、とりあえずまっすぐ帰ろうか。機内食を食べたから、そこまで腹も減ってないし」
デンマークを発つときは思わせぶりなことばかり言って私を慌てさせた昴矢さんだけれど、こんなところはやっぱり優しいなと思う。
彼自身が疲れているというよりは、初めての海外出張だった私を気遣ってくれているのだろう。
「賛成です。……長距離フライトに時差もあって、想像以上に疲れました」
昴矢さんの前では、無理に強がる必要もない。こうして本音を言える相手が隣にいてくれるだけで、とても救われる。
「だったら荷物もあるし、タクシーに乗ってしまおう。こういう時、帰る場所が同じだと楽でいいな」
「そうですね」
昴矢さんがマンションの隣人でなければ、今日はここでお別れだったのかもしれないのか……。
彼と並んでタクシー乗り場へ向かいながら、今さらのようにそんなことを思う。