恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる
いくら疲れていても、それはちょっと寂しいかもしれない。
昴矢さんとはホテルの部屋こそ別だったけれど、二泊四日もの長い間一緒に過ごしていたのに……それでも離れがたいと思っている自分に気づいて、胸がきゅっと甘い痛みを覚えた。
タクシーのトランクに荷物を積み込んで後部座席のシートに深く身を預けると、ようやく少し気が抜けた。
放心状態でただ車窓を眺めていると、太腿の上に置いていた手に、温かい彼の手が触れる。
ドキッとして隣の彼を見ると、口元に人差し指を立てている。
運転手に悟られないように、という意味だろうか。彼はそのまま私の手に指を絡めて握った。
困ったように彼を見つめると、昴矢さんがそっと顔を近づけて来る。ますます高鳴る胸の音を聞きながら、彼のささやきに耳を傾けた。
「羽田を出たから、もうプライベートだろ?」
「それは、そうですけど……」
疲れた私を気遣い、タクシーに乗る提案をしてくれるのはさすがだなと感心していたのに、実はこうして迫るつもりだったのだろうかと思うと、彼の策に嵌まってしまったようで悔しい。
手を握られている以外は静かに座っているだけなのに、全身がじわじわ熱くなってきて、鼓動が暴れる。
せめて彼からは目を逸らしていたくて、もう一度窓の方を向く。かわいくない反応だとわかっているけれど、羞恥に染まる自分の顔も見られたくなかった。