恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる

 マンションに着くまでのおよそ三十分間、タクシーの車内で昴矢さんがそれ以上の行動に出ることはなかったけれど、私の心臓は限界に近かった。

 これから告白なんて本当にできるだろうか。しかも、告白だけで済むとは限らない。

 どちらかの部屋で話をすることになったら、キスか、もしかしたらそれ以上の展開になることだってある。

 今さらながら、どこかレストランにでも入っておけばよかったのでは、という思いが脳裏をかすめる。

 しかし、どちらにしろ一緒に帰ってくるのはこのマンションだ。想いが通じ合った後どうなるかは、結局変わらない気がする……。

 タクシーを降り、昴矢さんと無言でエントランスへ向かいながらも、心の中の自分との会話が忙しい。

 昴矢さんは今、いったいなにを思っているのかな……。

 問いかけるように少し先を歩く彼の背中を見つめてただ胸を熱くしていたその時。

 私たちの後ろで閉まりかけていたオートロックのドアに、なにかが激しくぶつかる音がした。

 驚いて後ろを振り向くと、そこには無理やりドアを突破したらしい女性の姿があった。強引な行動に少し恐怖を感じた瞬間、女性が顔を上げる。

 瞬間、私の胸がざわめいた。

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