恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる

「でも、あの夜昴矢に電話で怒鳴られて、気づきました。那美を不安定にさせてたのは俺がちゃんと向き合ってやらないせいだって。昴矢は昔からの友達で、彼女のワガママにも慣れていて、なにより優しい奴です。だから昴矢に任せておけば那美も落ち着いて俺のところに帰ってくるって……どこか他人事でした。昴矢の迷惑も考えずに」

 翔真さんもまた、昴矢さんの優しさに甘えていた内のひとりだったんだ。彼らは親しい友達だからこそ、その限度がわからなくなっていたのかもしれない。

「そのことはもういいけど、那美は? 体、大丈夫なのか?」
「ああ。寝てれば大丈夫みたいだ。俺が結婚を申し込んだとたん、安心して悪阻(つわり)がひどくなるなんて……。今まで、よっぽど気を張ってたんだよな」

 翔真さんが後悔を滲ませて目を伏せる。

 昔からの友人がひどく落ち込んだ姿に、昴矢さんがフッと苦笑した。

「そう思うなら早く帰ってやれ。俺と志乃はこの通り、うまくやってるから」
「昴矢さんの言う通りです。那美さんきっとひとりで不安でしょうから。それと、元気な赤ちゃんを産んでくださいって伝えてください」
「昴矢、志乃さん……。ありがとう」

 翔真さんは謝った時よりもさらに深く頭を下げ、グラスに残っていたワインのことも気にせず、那美さんのために急いで店を後にした。

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