恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる

 ふたりきりになると、昴矢さんは自分のグラスに口をつけ、赤ワインをひと口飲んで私を見る。

「俺たちもこれ飲んだら帰る?」
「えっ? まだ来たばっかりじゃないですか」

 仕事の後ここで翔真さんと待ち合わせて、一杯ずつ頼んだグラスワインを飲んでいる途中で那美さんの話になったから、まだ来てから三十分くらいだ。

 残照へ来るのは久々だったから、私はもう少しゆっくりワインを飲もうと思っていたのだけれど。

「でも、志乃とゆっくりできるの久しぶりだろ。まだ飲みたいならどっちかの部屋にしよう」
「……完全に下心あるでしょう」

 昴矢さんと付き合い始めて一カ月。お店より部屋で飲もうと彼が言う時は、絶対に飲むだけでは終わらず、ベッドに連れ込まれるまでがセットだ。

「否定しないけど、せめて恋心と言ってくれ」
「相変わらず営業トークがお得意で」
「俺はいつも本気」

 出会ってから幾度となく交わしたやり取りを口にすると、私たちは目を見合わせてくすくすと笑った。

 恋人同士になっても、時々相棒に戻って軽口を叩ける関係がとても心地いい。

 私たちは結局、ワインを一杯だけ空にすると、そそくさと残照を後にした。仕事で付き合いのある店なので、彼と手を繋ぐのは店を出てからにする。

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