恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる
「もういっそ、志乃の部屋解約するか? どうせ隣同士なのに、別の部屋に帰る理由がわからなくなってきた」
……それって、一緒に住もうって意味だよね。
平日はともかく、休日はほとんどどちらかの家で一緒にいることが多いから、確かにその方が楽かもしれない。
同棲……なんだか私たちの関係がいっそう深まっていくようで、ドキドキしてしまう。
「志乃はどう? やっぱりひとりで寛ぐ部屋があった方がいいと思うなら、無理にとは言わないけど」
「いえ。……昴矢さんと一緒がいいです」
はにかみながら彼を見上げると、ゆっくりと大きな影がかかる。あっと思った時には唇を奪われ、路上なのにと思いつつも抵抗はできなかった。
照れくさくて俯いていたら、昴矢さんがつないだ手に力をこめて、言った。
「次の休みに、指輪を見に行こうか」
「えっ……?」
唐突に指輪と言われてもピンと来なくて、ただ彼を見つめ返す。昴矢さんは一度歩みを止めると、真剣な瞳で私を見下ろした。
「なんの覚悟もなく、一緒に住もうって言ってるわけじゃないんだ。これからも、一番近くできみのことを守りたいし、もっともっと、甘やかしたい」
「昴矢さん……」
そんなにも私とのことを真剣に考えてくれていたとは思わなかった。
一緒に住みたいと言うのも、付き合い始めの今だからこその勢いに押されているんじゃないかって。そう思いつつも、彼から言い出してくれたこのタイミングを逃すのも、少し怖かった。
昴矢さんと付き合ってからの毎日には幸せしかないけれど、やっぱり今までの恋愛経験に失敗が多いから、心の隅には不安がいつも付きまとっていたのだと思う。
もしかしたら、彼はそんな私の気持ちにも気づいていたのかな。