恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる

「志乃。今日のあなた本当に綺麗よ。あまりプレッシャーをかけたくないから言えなかったけど、こんなに美人で出来のいいあなたがなんで三十を過ぎても結婚できないのかしらって、世の中の全男に腹を立ててたくらい、自慢の娘なんだから」
「……お母さん。ありがとう」

 隣の椅子で黒留袖を纏い、すでに潤んだ目元にハンカチを当てている母に、感謝を伝える。

 私の顔は、どちらかというと母親似。そして母は昔から美人だともてはやされて育ったようだったから、自分と似た顔の娘がずっと独身なことが歯痒かったのだろう。

 これまでその気持ちを胸に秘めていてくれたのは、きっと母なりの愛情だ。

「父親としては複雑なところもあるが、真城くんは落ち着きと思いやりのある気持ちのいい青年だ。いまだに子どもっぽいところのあるうちの息子たちも見習ってほしいくらいだよ」

 私を挟んで母とは反対側の椅子に座り、弟たちを見やって苦笑したのは、すっかり白髪の増えた六十代の父。

 私の背が高いのはおそらく父からの遺伝で、昴矢さんとそう変わらない長身に、モーニングがよく似合っている。

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