恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる
会社へ戻ると、デスクに向かう針ヶ谷さんがいた。先ほどの件をすぐにでも追及したかったが、とりあえず定時の六時を過ぎてからにしようと決め、私も自分のデスクで仕事と向き合う。
各取引先の売り上げ実績をまとめ、それが終わったら試飲会の資料作り。
会社で取り扱う商品の情報は、資料室にまとめてあるから取りに行かなくちゃ。
椅子から腰を上げ、廊下に出る。
和食に合うワイン……。せっかくだから、王道の商品の他にもあの気難しい料理長をハッとさせるような一本も加えたいな。
商品情報はデータ化されたものがパソコンの中にも揃っているが、なにを隠そう私はアナログ人間。
画面の中に並んだファイルから目的のものを探す作業が苦手で逆に時間がかかってしまうので、情報が必要な時はいつもこうして資料室に足を運ぶ。
若手社員たちにはその感覚が理解できないようで、私だって彼らと同じ平成生まれなのによく『昭和っぽい』とからかわれる。
もちろんそれくらいで傷つきはしないけれど、古いものを〝古いから〟という理由だけで馬鹿にするのはもったいないことだと思う。
こんな考え自体、やっぱり彼らにとって『昭和っぽい』のだろうけれど――。