恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる

 資料室のドアを開けると、明かりがついていて先客がいた。

 書架にもたれてファイルを開き、目を伏せてなにか読み込んでいた彼が、ドアの音に気づいて顔を上げる。

「ああ、神崎さん。お疲れ」
「真城さん……。お疲れ様です」

 軽く挨拶した後、すぐに目を逸らす。

 隣人だから気まずいというだけでなく、彼のキラキラしたオーラがなんとなく苦手だ。

 恋愛を避けるうち、自然と男性に対する免疫が弱くなってしまったのかもしれない。

 真城さんの存在を意識しないようにしながら、国産ワインの資料が並んだ棚の方へ向かう。

 本当はじっくり吟味したかったけれど、彼とふたりきりの空間では集中できそうになかったので、とりあえず手あたり次第ファイルを抱え、営業部に戻ってから選別することにした。

 A4サイズのファイルを十冊ほど抱え、来た時と同じ位置にいる真城さんの前を「失礼します」と横切る。

 その直後、彼が近づく気配がして、手の中のファイルが半分以上奪われる。

「えっ? あの」
「手伝う。ひとりでこんなに運んだら腰やるぞ」
「いえ、結構です。私、体は頑丈な方なので」
「だとしても、男の俺の方がもっと頑丈。そろそろ戻ろうと思っていたから、ついでだよ」

 真城さんはさっさとドアを開けると、再びドアが閉まらないよう背中で支えながら私が通るのを待つ。

 断ろうにも断れない状況になってしまい、急いで部屋の外に出た。並んで廊下を歩きだしたところで、恐縮しながら彼に頭を下げる。

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