恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる
「お手数おかけしてすみません」
「気にするなよ。朝のお礼もまだだったし」
「朝のお礼……?」
私、なにかしたっけ?
「営業部の女性陣に囲まれて出かけるタイミングをすっかり失っていたところを助けてくれただろ」
「あぁ……。あれくらい、お礼してもらうほどのことじゃありません」
言われるまで忘れていたくらいの出来事だし、私は自分のために動いただけだ。
「だったらなおさら感心する。とくに意識せず、自然と人を助けられるってことだ」
「お、大袈裟です。営業トークは取引先だけにしてください」
「思ったことをそのまま言っただけなんだけど」
真城さんが快活に笑って目を細める。その笑顔も人の懐にスッと入り込むようなセリフも、すべてが完璧すぎて眩しい。
彼が出世街道まっしぐらと言われている理由がわかる気がした。家柄や生まれつきの容姿は別としても、彼には人より秀でた部分が多すぎる。
軽い敗北感を覚えつつオフィスに戻ると、ちょうど帰ろうとしていた針ヶ谷さんとバッタリ鉢合わせた。
私と真城さんをジロジロ見比べた彼は、フンと鼻を鳴らす。