恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる

「へえ。男のことはもれなく見下しているのかと思いきや、真城のようなエリートには平気で媚びるんだな」

 ……はぁ。またか。この人はもはや、私に嫌味を言うためだけに会社に来ているのではないだろうか。

 相手にするのも面倒だけれど、真城さんまで巻き込んでしまっては、無視するわけにもいかない。ちょうど、さっきの件も話さなければと思っていたところだし。

 言い返すために一歩前に出ようとしたその時、私より先に、真城さんが針ヶ谷さんの目の前に立った。

「彼女がいつ誰に媚びたって? 勝手な憶測で失礼なことを言うな」
「なんだよ真城。すっかり手懐けられてんじゃん」

 真剣に怒ってくれている真城さんに対し、針ヶ谷さんの人を馬鹿にしたような態度は変わらない。彼らは同期入社だが、とくに親しいわけではなさそうだ。

「勘ぐったような言い方をするのはやめろ。資料を持つのを手伝っただけだ」
「だから、神崎にそう仕向けられたんだろ?」
「どうしてそうなる? これは俺が自主的に――」

 真城さんはなおも反論してくれようとしていたが、針ヶ谷さんはどうあっても私を悪く言うのをやめないだろう。これ以上迷惑をかけるわけにはいかない。

 針ヶ谷さんがこんな風になってしまったのは、交際していた私にも多少責任があるのだ。

 これは、私が解決すべき問題――。

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