恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる

 私は真城さんの背後から飛び出し、針ヶ谷さんを睨みつけた。

「見下されたくないのなら、それ相応の仕事をしてください。今朝、私が声をかけた時、スマホでゲームをしていましたよね?」
「……は? いや、なんだよそれ」

 半笑いで否定しつつも、目が泳いでいる。無意識だろうがスラックスのポケットに入れたスマホにも触れていて、心当たりがあるのは明白だった。

「それと、大切なお得意様である残照で、店を貶めるような発言をしていたそうですね。浅はかな同僚がいることに店主は同情こそしてくださいましたが、取引は変わらず継続してくださるそうです。私の足を引っ張ろうとしたのなら無駄でしたね」

 悔しげに表情を歪める彼が今なにを思っているのか、手に取るようにわかる。

〝コイツ、女のくせにかわいくない〟だ。

 でもこっちだって、かわいいだなんて思っていただけなくて結構。

 これくらいで泣きごとを言っていたら、この先ひとりでやっていけない。誰にも頼らず自分の足でしっかり人生を歩んでいくために、どんな時も強い私ではいなくては。

 絶対に負けないと表明するように針ヶ谷さんをジッと見つめていると、彼はふいと目を逸らし、真城さんにへらへらと笑いかけた。

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