恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる
「いつもって、真城さん帰国したばかりじゃないですか」
「そうだけど、昨日一日で結構きみの人となりはわかったつもりだよ。それに引っ越しの日に会った時、ランニング帰りだっただろ? 休日に運動する習慣があるなんて、自己管理のできている女性なんだなって感心したんだ」

 そう言って微笑む真城さんは眩しいくらいにキラキラしているが、褒め言葉を素直に受け取れない。

あの日はすっぴんで彼と話していたことに後から気づいて後悔していただけに、皮肉だろうかと穿った見方をしてしまう。

「また営業トーク。それ、きっと職業病ですね」
「……そんなつもりは一切ないんだけどな」

 真城さんが苦笑した直後、エレベーターが一階に到着した。

 よかった。ふたりきりの空間からやっと抜け出せる。

「私、先に行きますね。出勤が同時になって、また針ヶ谷さんに変な風に思われたら面倒なので」
「えっ? ああ、そうだな……」

 なんとなく曖昧な返事をする真城さんを残し、私はさっさとエレベーターから下りて早足で駅に向かう。

 会社の先輩と同じマンションに住んでいるのって、やっぱり少し気まずい。

 それに、仕事以外で男性と接触するのが久しぶりすぎて、いちいち反応に困ってしまう。

 私がどんな反応をしたところで男性にとっては〝かわいくない〟のだから、気にするだけ無駄なのに……ああもう、真城さんが変に褒めてくるから調子が狂う。

< 27 / 199 >

この作品をシェア

pagetop