恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる
雑念を振り払うように午前中は事務作業に集中し、昼休みを迎える直前。私は上司に呼ばれ、パーテーションで仕切られたミーティングルームへとやってきた。
立ったまま向き合っている相手は、国内・海外の両営業部を束ねる浅井部長。オールバックの髪に黒縁眼鏡、優しげな垂れ目がトレードマークの四十七歳。
部下にも一律敬語で接するなど物腰が柔らかい反面、重役に対しては太鼓持ちに変身する調子のいい上司だ。悪い人ではないのだが、彼に頼まれるとどんな仕事でも断りづらく、つい引き受けてしまう。
こんな風に個別で呼び出されるなんて、なにか特別面倒な仕事を頼まれるのでは……?
「部長、お話というのは……?」
「ええ。単刀直入に言いますと、新年度から神崎さんを海外営業部のメンバーに加えようかと思っているんです。きみに頑張る気持ちがあるのなら、ぜひどうですか?」
切り出された話が想定外すぎて、ただ大きく目を見開いた。
「海外営業……」
いつかは自分もその一員になって、世界を相手に商談をして、大きな契約を勝ち取る。そんな自分を何度も夢に見たことがあるほど、私にとっての大きな目標だった。
……うれしい。本当に、うれしい。
「ぜひ、お受けしたいと思います!」
エリート揃いの集団の中ではきっと埋もれてしまうくらいの実力しかないだろうけれど、その中で存分に揉まれて、もっと成長したい。