恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる

「神崎さんならそう言ってくれる気がしました。それじゃ、上に話を通しておきますね。正式な辞令が出るまでは、一応内密にお願いします」
「承知しました。部長、本当にありがとうございます……!」
「いえ。神崎さんの実力ですよ」

 これまでずっと自分の仕事を見てくれていた上司に評価してもらえて、思わず涙ぐみそうになる。

 しばらく喜びを嚙みしめてからミーティングルームを出ると、なぜか針ヶ谷さんが待ち伏せたようにそこにいた。

「あの、なにか?」
「別に」

 彼はジロジロと私の姿を上から下まで観察した後、無言で顔を背け、自分のデスクに戻っていく。

 ……なんなの。話を聞かれてたわけじゃないよね?

 彼の態度は激しく気になったけれど、いつものように嫌味を言われたわけでもないので、不気味に思いつつも放っておくことにする。

 正式に辞令が出て異動となれば、針ヶ谷さんともようやく離れられる。期限があると思えば、彼とのギスギスした関係も大したことではない。

 向こうもきっと、いい厄介払いができたと思うだろう。

「がんばろ」

 海外営業部では遠方の国への出張や長期の駐在もあるから、恋人がいない身軽な状態でちょうどよかった。

 声をかけてくれた海外営業部、そして私を推してくれた部長の恩に報いるために、プライベートも捧げる覚悟でこのチャンスをものにしよう。

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