恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる

「……恐縮です。真城さんみたいな優秀な方にそう言っていただけるなんて」
「こちらこそ。そんな風に言ってくれたきみをがっかりさせないように、精進するよ。それじゃ、試飲会頑張って」

 爽やかな微笑みでクーラーボックスをポンと軽く叩き、真城さんが私の席を離れていく。どこまでも朗らかで奢らない人だ。

 彼が仕事で結果を出し続けているのも、帰国初日に営業部の女性たちに囲まれていた理由も、言葉を交わせば交わすほどによくわかる。

 あんなにすごい人のそばで仕事ができることを、光栄に思わなきゃ。

 真城さんと話したことで改めて気合いが入った私は、試飲会の持ち物や手順を念入りにチェックしながら、同行する針ヶ谷さんが出勤してくるのを待った。


「……来ない」

 始業五分前の八時五十五分になっても、オフィスに針ヶ谷さんが現れない。

 やきもきしながら、腕時計と入り口の方を幾度となく見比べる。そうこうしているうちに朝礼の時間になり、部長から連絡事項が伝えられる。

「先ほど連絡がありましたが、針ヶ谷くんは今日、発熱でお休みだそうです。彼の予定は神崎さんがすべて把握していると聞いているので、各所への連絡、よろしくお願いします。皆さんも体調管理にはじゅうぶん気を付けてください。それでは次――」

 ……えっ。休み?

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