恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる
背伸びといっても、自分の貯蓄額や会社の住宅補助、これからのライフプランなどしっかりと検討して選んだ物件なので、無理をしたわけではない。
これからもおひとり様で生きていくなら、快適な家に住んだ方が人生も充実するかな、なんて。
付き合っていた恋人にフラれ、同居していた弟が結婚を決めた二年前から、漠然とそんなことを考えるようになった。
寂しさを忘れようと仕事に打ち込めばそれなりの評価は得られたけれど、独りぼっちでどことなく虚しい気持ちはどうしてもつきまとい、心機一転、新居へ引っ越したい思いがどんどん強くなった。
そうして、実際に不動産会社に足を運んで物件情報をリサーチしたり、モデルルームの見学を繰り返すこと数カ月。
ようやくここだ!と思える物件が見つかり、すべての手続き・準備を終えて入居できたのが、今年の一月。
新しい年を迎えたタイミングでの引っ越しは気持ちを切り替えるにもちょうどよくて、ここからリスタートだと前向きになれたつもりだったのに……。
『強い女ぶってるだけかと思いきや、本当にたくましいよな。もうちょっと男を立てるってこと覚えた方がいいぞ』
ふいに、元恋人からの皮肉交じりの助言が、耳の奥でこだまする。耳に嵌めたワイヤレスイヤフォンから音楽が流れているというのに、それよりもずっと大音量で。
けっして元恋人に未練があるわけじゃない。
なのにこんなにも彼の言葉にとらわれているのは、本当は私自身が一番〝たくましい自分〟をコンプレックスに思っているからだろう――。