恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる
「ですので、あのかわいげがないで有名な神崎が家では猫耳のついた部屋着を着ている、という事実は、どうか真城さんの胸の中だけで留めておいてください……」
「有名って。そんなこと言ってるの、針ヶ谷だけだろ」
「目立って聞こえてくる声はそうですけど……内心思っている人は多いと思います」
「ふうん。多いってどれくらい? ちなみに、俺は思ってないけど」
ただの世間話にそこまでのデータを求めないでほしい。
あくまで感覚の話だから、営業部の内何人が私を煙たがっているかなんて、わかるわけがない。
それに、もう何度も〝やめて〟とお願いしている営業トークを、懲りずに繰り出してくるのも困る。
私を褒めてもなにも出ませんけど!?と、いつも心の中で叫ぶ羽目になる。
「そ、それはどうも。あの、真城さんお出かけするところでしたよね? お時間大丈夫なんですか?」
私は話を逸らす作戦に出た。面倒なやり取りを避けるために、かわいげがどうのと言う話は、彼の前であまりしないようにしよう。
「いや、別に出かける予定はないよ」
「えっ? でも、じゃあどうしてこんなところに」
率直な疑問をぶつけると、真城さんは珍しくパッと私から目を逸らし、気まずそうな顔をした。
もしかして、聞いちゃいけないことだった?
そう思った直後、頭の中にさっきぶつかった女性が像を結んだ。