恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる

「さっきまで来客があって、見送ろうとしてたんだ。ま、もう帰っちゃったみたいだけど」

 来客……見送ろうとしたのに帰ってしまった。ってことは、彼女の涙は真城さんが原因?

 あの女性、真城さんの隣に並んだらすごくお似合いそうだったし、もしかしてそういう関係なのかも。だとしたら、私を相手に営業トークをしている場合ではないではないか。

「追いかけなくていいんですか?」
「追いかける? いや、向こうは急に押しかけて来ただけだし、そのくせ勝手に怒って帰っていったんだ。付き合いきれないよ」

 真城さんはふっと苦笑すると、私に背を向けてエレベーターホールの方へ向かっていく。まるでこれ以上の追及から逃れたいみたいだ。

 見た目が極上で、内面にも人を惹きつけるものがある真城さんがモテるのは自然の摂理のようなものだろうけれど、泣いている女性に対してその言い草……ちょっと薄情すぎやしないだろうか。

 仕事の面では尊敬できる人だけど、女性関係は要注意――。

 心の中で彼に対する認識を改めつつ、その背中をジッと睨みつける。すると、視線に気づいたかのように真城さんが突然振り向いたのでドキッとした。

「そういえば聞きそびれてたけど、目黒の和食レストラン、どうだった?」

 屈託なく尋ねてくる彼はもういつものキラキラした真城さんで、なんとなく毒気を抜かれる。

 たとえ彼が女性泣かせの人物だったとしても、同僚として付き合うぶんにはあまり関係ないか……。

 仕事の件を報告すると約束していたのに忘れていた負い目もあって、慌てて彼の元に駆け寄る。

 そして、お互いの部屋に戻るまでの間、試飲会についてのあれこれを真城さんに話して聞かせるのだった。

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